リンパ球グループ:織谷、横田、齋藤、数藤、藤田(奈)
はじめに
宿主への侵入・特異的臓器への定着・病原体の増殖や毒性因子の産生などの過程を経て病原微生物の感染が成立する。病原微生物は常に自然界に存在しており、宿主側も自然免疫や獲得免疫などを中心とする複雑な感染防御システムを構築して対抗している。これら感染防御システムにより、侵入した病原微生物を宿主から排除することが可能である。しかし、成人T細胞白血病ウイルス・ヒト免疫不全ウイルス・肝炎ウイルス・ヘルペスウイルスなどは持続的に感染し、腫瘍・免疫異常など宿主に様々な異常を引き起こす。また、SARSコロナウイルスは、その経過中に急性呼吸窮迫症候群を引き起こす。これらの病態は、ウイルス自身による病原性だけでなく、宿主の免疫応答も密接に関わっていると考えられる。近年、いくつかの抗ウイルス薬が臨床応用されているものの、「宿主における感染防御システムをいかにコントロールするか」という難問が残ったままである。一方、正常免疫反応から逸脱したB, Tリンパ球の量的・質的異常は、自己免疫疾患やアレルギー性疾患の主因をなす。また、現在医療で最も優れた免疫療法は造血幹細胞移植であるが、その副作用である急性/慢性GVHDが大きな問題となる。我々は、新しい免疫評価法の確立や免疫機構の人為的制御法の開発を通して、その成果を医療現場に還元すべく研究を進めている(図1)。
グループの歴史
我々は、宿主による感染防御システムにおける重要な構成細胞であるB, Tリンパ球の産生や機能を制御する分子の同定を進めてきた。現在までに、新規インターフェロン様サイトカインIFN-ζ/Limitinや新規脂肪組織特異的蛋白AdiponectinはじめCD44, CD9, TGF-β family, secreted Frizzled-related protein (sFRP) familyやWnt familyなどの膜蛋白や分泌蛋白をリンパ球調整候補分子として報告してきた(図2)。特に、糖尿病や動脈硬化との関連が注目されているAdiponectinに関し、抗炎症作用を有すること・Cox-2遺伝子発現を調節しプロスタグランディン産生に影響すること・ケモカインと結合しその局在に影響することなどを報告している。また、新規アダプター蛋白signal-transducing adaptor protein-2 (STAP-2)がFAK, IKKs、MyD88, STAT3などの機能に影響を及ぼし、Tリンパ球の増殖や遊走を制御すること・Toll-like receptorからのシグナルを調節すること・EBウイルスのlatent membrane protein-1からのシグナルを抑制することなどを見出している。さらに、血管内皮細胞マーカーであるEndothelial cell-specific adhesion molecule-1 (ESAM-1)を新しい造血幹細胞マーカーであることも見出した。一連の研究を通じ、独自のマウス・ヒトリンパ球培養法を確立している。
現在の研究内容
A. トランスジェニック キメラマウスを用いたリンパ球調節候補分子の生体内役割の解析
トランスジェニック キメラマウスは、対象となる遺伝子をTargeting vectorのIgκ promoterの下流に挿入し、図3の手順で作製する。本キメラマウスでは、成熟Bリンパ球が出現する成獣マウスにおいてのみ対象蛋白の発現が認められる。我々が報告してきたリンパ球調節候補分子のキメラマウスを作製し、それらの生体内での作用を解析する。
B. 造血幹細胞およびリンパ球初期分化に関する検討
マウス造血幹細胞LSK (Lineage-, SCA-1+, c-KIT+)のうち、ESAM-1陽性細胞分画のみが骨髄再構築能を有している(図4)。実際、リンパ球への分化が始まる極早期にESAM-1の発現量が低下する。我々は、LSK細胞中をESAM-1の発現で分割したうえで、両者間における遺伝子発現の相違を検討中である。本研究を通して、(1) 造血幹細胞の未分化維持に関わる分子 (2) 造血幹細胞特異的膜蛋白 (3) 各系統への初期分化に関わる分子を検討している。
C. キメラT細胞受容体を応用した新規細胞免疫療法の開発
近年、腫瘍抗原を特異的に認識するモノクローナル抗体由来の単鎖抗体(scFV)と、免疫細胞の受容体の細胞質シグナル伝達ドメイン鎖(CD3ζ chainやFcRγchain)を遺伝子工学的に結合させたキメラ受容体を強制発現させたT細胞を用いた細胞免疫療法が諸施設から報告され、治療効果が期待されている(図5)。通常のT細胞受容体と異なりキメラ受容体はHLAの型に制限されることなく癌抗原を認識でき、キメラ受容体を発現したT細胞を患者に戻す手法は、HLA非拘束性に全ての患者に用いることが可能であると考えられている。我々は、このキメラT細胞受容体とヒトリンパ球培養法を組み合わせて、造血器腫瘍に対する新しい治療法の開発を行っている。
2009年8月一部改変