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3. 造血細胞の腫瘍化機構に関する研究

1998年、金倉教授と共に第二内科より移動した池田、北山が、上田と共に幹細胞増殖因子(Stem Cell Factor, SCF)の受容体c-Kitの活性化変異による細胞の腫瘍化機構についての解析を開始した。共同研究として、久留米大学(現慶応大学)、吉村教授とc-Kitのシグナル伝達を阻害する分子JAB (SOCS-1)の単離 (Nature 1997)、阪大病理学、北村教授(現名誉教授)と消化管の間葉性腫瘍 (GIST)におけるc-Kitの活性化変異の同定 (Science 1998)、c-Kitの胚細胞性活性化変異を有する家系の発見(Nature Genet 1998)が報告された。上田は、c-Kitの細胞内ドメインの22種のTyr-Phe変異体シリーズの解析からc-Kit/SCFによる細胞の遊走と細胞内へのCa流入には傍細胞膜領域のTyr567, Tyr569を介したSrcファミリーのチロシンキナーゼの活性化とキナーゼインサート領域のTyr719を介したPI3-Kの活性化が関与することを明らかとした (Blood 2002)。上田と池田は傍細胞膜領域型(Val559Gly)、キナーゼ領域型(Asp814Val)の2種のc-Kitの活性化変異体のimatinib感受性を検討し、傍細胞膜領域型はimatinib高感受性であるがキナーゼ領域型はimatinib抵抗性であることを明らかとした(Int J Hematol 2002)。水木はドイツ,ミュンスター大学に留学しFLT3の活性型変異(FLT3-ITD)が正常のFLT3と異なりSTAT5の活性化を介して腫瘍化を誘導すること(Blood 2000)、マイクロアレイ解析によりFLT3-ITDによる腫瘍性増殖にはSTAT5の標的分子Pim-2が関与することを証明した (Blood 2003)。 橋本、松村、病理学教室・辻村(現兵庫医大)はc-Kitのキナーゼ領域活性化変異体のシグナル伝達にTyr714-PI3kinase経路が必須であることを報告した(Blood 2003)。石河は、上田、橋本らと同様の研究をFLT3のキナーゼ領域の活性化変異体(Asp835Val)において行い、細胞内ドメインの22個の各Tyr残基のPhe変異体のシリーズを用いて、FLT3キナーゼ領域活性化変異体においてはTyr845,892,922の変異により活性化が抑制され、Hsp90, cdc37の過剰発現で活性化が回復することよりこれらのチロシン残基が活性化変異体の構造の安定化に重要であることを示した(Oncogene 2005)。大塚は予後不良の多発性骨髄腫例に認められるFGFR3活性化変異を有する腫瘍性形質細胞株において、特にキナーゼ領域変異FGFR3Lys560Gluは細胞内で既に活性化を示すこと、またプロテアゾーム阻害剤bortezomibによりERストレスが高度に誘導されることにより本薬剤に高感受性であることを報告した(Anticancer Res 2011)。藤田は定常状態での造血幹細胞から樹状細胞(DC)分化の系を確立し、この系を用いて白血病関連遺伝子class I変異、classII変異によるDC分化への影響を検討し、特にclass I遺伝子によるSTAT5, MEKの特異的なシグナル伝達分子の活性化がplasmacytoid DC分化を障害することまたPD-L1を異所性に発現させることで抗腫瘍免疫を抑制する可能性を示した(Immunol lett 2011)。